メタ認知

学習方略(ストラテジー)はさまざま考案されていますが、どのストラテジーが合っているかは人によります。そこで、学習者は自分を客観的に分析し、ストラテジーの選択や効果検証をおこなう必要があります。このような一段上から自分を捉えることをメタ認知と言います。

メタ認知は以下の構成をとっています:

 

1. プランニング
目標設定や計画立案。学習環境を整えることも含まれます。

 

2. モニタリング
理解度を確認しながらの学習、必要な情報への集中、モチベーションの維持です。

 

3. 問題解決
正解の推測や、別な言い回しの利用、情報収集です。

 

4. 評価
計画やストラテジーは正しかったのか、達成度の評価です。

 

以上の4つはメタ認知プロセスとして循環して機能します。目標をたて(プランニング)、学習状況を確認しながら課題をクリアし(モニタリング・問題解決)、計画通り進んだか確認(評価)するのです。

 

メタ認知プロセスは言語習得の認知プロセスの活性化にも役立ちます。例えばプランニングは話す内容を考えたりするリハーサルになり、中間言語に基づいた仮説を立てることになります。つまり、「理解」に働きかけるわけです。

モニタリング・問題解決では実際にスピーキング等をおこないながらになるため、中間言語の検証による理解→内在化につながります。

そして、評価では中間言語の再構築つまり統合プロセスとなり、知識の「穴」の発見→インプット時の気づきへと進みます。

 

メタ認知プロセスと言語習得の認知プロセスは強い相関があるのです。

 

 

記憶と言語習得

人間が瞬間的に記憶できる情報は7個くらいという話をご存知でしょうか。例えば、7桁の数字であれば多くの人が瞬間的に覚えることができますが、携帯番号のように11桁の数字になると覚えることができる人の割合が極端に下がります。ところが、私たちは実際に多くのことをとても長い間覚えています。

 

これは、記憶の二重貯蔵モデルで説明ができます。短期記憶の貯蔵量と、長期記憶の貯蔵量が違うということですね。

 

記憶の二重貯蔵モデル:

インプット→短期記憶→長期記憶→アウトプット

 

短期記憶から長期記憶へ情報を移すためには短期記憶された情報をリハーサルによって強化する必要があります。また、言語習得の認知プロセスで言う、深い理解をおこなった方がより長期記憶へと情報が移りやすいです。

 

認知プロセスの気づき、浅い理解、深い理解、内在化までが短期記憶です。最後の統合が、情報の長期記憶と処理の自動化にあたります。つまり、言語習得において認知プロセスと記憶の二重貯蔵モデルは対応関係にあるわけです。

 

もちろん言語習得は単なる記憶でとどまらず、アウトプットによってコミュニケーションを図ったり、社会文化に同化することも含むため、どちらかというと言語習得が記憶の二重貯蔵モデルを内包している感じですね。

 

 

英語を学習する際に意識しておくべき3つの欲求

3つの心理的欲求(three psychological needs)と呼ばれる欲求がありまして、これが多くの人が生まれつき持っている動機づけの要因とされています。

 

1. 自律性(autonomy)の欲求
自分の行動にたいして責任を持ちたいという欲求です。言われてやるより、自分で決めたことをやりたいということ。

 

2. 有能性(competence)の欲求
やればできるという達成感を味わいたいという欲求です。やっても無理なことはやりたくありませんよね。

 

3. 関係性(relatedness)の欲求
他の人と協力できる関係を持ちたいという欲求です。つまり、仲良くやりたいという欲求です。

 

これら3つの欲求を考慮して学習のモチベーションが下がらないようにしましょう。すべての人に有効なモチベーション低下対策はありません。各自が自分の性格や適正を理解し、適切なモチベーション低下対策をうつべきなのです。

 

 

あなたはなぜ英語を勉強するのですか

第二言語習得において、習得プロセスの解明と同じように重要な分野が「動機」です。モチベーションですね。学習者がどのようなモチベーションで動いているのか研究がおこなわれていて、動機を大きく2つに分類しています。

 

1. 統合的動機(integrative motive)
第二言語社会や文化に同化・統合しようとする態度です。英語で映画をみたり本を読んだり、コミュニケーションを取ったり、旅行したりと、特定の目的というよりも体験や同化の達成をモチベーションにしています。

 

2. 道具的動機(instrumental motive)
何らかの実利的目的を達成しようとする態度です。就職や昇給などの経済的インセンティブのようなものを得ることがモチベーションになっています。

 

上記2つの動機も細分化して研究されていますが、ここでは大枠として捉えていて問題ないです。重要なポイントはモチベーションが下がるときにどう対処するかです。

 

動機というのは誰しも1つしか持てないわけではなく、通常複数の動機で英語を学習しています。そして、動機の数が少なければ少ないほど、モチベーションを失いやすいという結果がでています。動機の数が多い=モチベーションが安定する、と考えることができるでしょう。

 

とくに統合的動機のみ、もしくは道具的動機のみだとモチベーションを失いやすい。たとえば、統合的動機で学習している人たちは英語が思ったほど上達しないことでモチベーションが下がります。言語習得は容易ではないため、英語社会や文化を体験・同化できる状態になるには相当な努力が必要です。要するに、目標が高すぎてやる気がなくなるパターンですね。

 

道具的動機の場合だと、たとえばTOEICで目標のスコアを達成した等でその後の英語学習のモチベーションが失われる等のケースがあります。こちらは英語自体は未熟でも、ある程度の努力や対策によって成し遂げやすい目標を設定した場合に、その時点でモチベーションが下がってしまうパターンです。

 

うまく道具的動機で小刻みな目標を設定し、統合的動機で長くモチベーションを維持するという工夫が必要ですね。

 

 

アウトプットの方法

アウトプットは言語習得の認知プロセス(気づき→理解→内在化→統合)を効率的に促進する役割があります。では、どのようにアウトプットをおこなえば良いのでしょうか。いくつかアウトプットのやり方を紹介します。

 

英語をつかってグループでコミュニケーションをとることはとても良い方法です。意味干渉によって認知プロセスが促進されますし、正解不正解のフィードバックで理解の「穴」を発見し、次のインプットでの気付きにつながります。

 

英語でのコミュニケーションが難しい場合は、1人で頭の中で英語を話してみるというのもオススメです。これはリハーサルと呼ばれ、fMRIで観測しても声に出して実際に言う場合と類似した活動を脳がおこなっていることが確認されています。

 

また、「ディクトグロス」(dictogloss)と呼ばれる方法は、比較的短いテキストを聞いたあとに、学習者が知っている単語でメモを取り、そのメモを参考にもとの文章を復元、オリジナルとの比較検証をします。これは聞き取る文章をすべて書き出していくディクテーションとは異なり、かなり能動的な方法です。

 

認知プロセスが促進されると、アウトプットのスピーチプロダクション・モデルにおける概念化→形式化→調音化の自動化が進みます。

自動化を強化するために、同じアウトプットを複数回繰り返す反復はとても重要です。最初のアウトプットは意識が意味内容(何を話すか)に集中していますが、同じ内容を繰り返していると「どう話すか」に集中できる余裕が生まれます。これによってスピーチプロダクション・モデルのプロセス自動化が促進されるのです。

 

 

アウトプットしないとダメなのか

アウトプット仮説と呼ばれる説があります。これはインプットだけではなく、アウトプットによって言語習得が促進されると主張する説です。実際に、アウトプットをまったくおこなわない場合にある程度言語習得が止まってしまう事例がいくつも確認されています。

 

さて、ではアウトプットの意味とは何でしょう。

1つはアウトプットによって知識の欠落部分を発見することができるということがあげられます。アウトプットしなければ気づかなかった欠落は多く潜んでいて、そのような欠落を発見し、次のインプット時により注意を向けることで効果的な学習につながるわけです。

 

2つ目は中間言語の検証ですね。中間言語はいわば仮説として組み立てられた言語体系です。仮説は検証することで実証されるため、アウトプットによって目標言語にたいしての正解不正解を見極めることができます。そして、中間言語の強化=目標言語へ近づくこと、が達成されます。

 

また、アウトプットとインプットは異なる言語処理がおこなわれているため、別な角度から習得を促進することができます。

例えば、インプットでは重要な単語だけ聞き取って文を理解できますが、アウトプットしようとすれば細かい点も表現しなければなりません。この細かい点にたいする注意によって総合的に言語習得がすすむわけです。

 

このようにインプットだけではなくアウトプットも言語習得において重要な役割を担っています。