言語習得の才能とは

第二言語習得研究では、語学の才能のことを「言語適正」(language apitude)という分野で扱います。研究の結果、言語適正が学習成果に与える影響は大きいということがわかっています。つまり、語学の才能というのは存在し、才能がある者が有利に学習をすすめることができるわけです。

 

ただ、自分には才能がないと思ってがっかりする必要はありません。言語習得の認知プロセスにおいて各段階で異なる言語適正というのがあります。何か1つが苦手でも別なものが得意というのが一般的なのです。

 

各段階の言語適正:

・気づき ←音声認識
・理解/内在化 ←言語分析力
・統合 ←記憶力

 

まぁ、あまり気にせず学習して、あとで振り返って自分には◯◯の適性があったんだなぁ、と考えてみてください。それが次の学習計画を立てるうえで材料になっていきますよ。

 

 

認知プロセスの締めくくり

中間言語を構築するまでのプロセスは「気づき」→「理解」→「内在化」でした。このプロセスは最後に「統合」(integration)で締めくくられます。

 

「統合」では取り込んだ情報を長期記憶に保持します。既存の中間言語体型を再構築して、処理の自動化へと導くのです。

短期記憶された段階の情報はすぐに忘れてしまうため、アウトプットとして有効に活用できません。理解と内在化を経て長期記憶にいたり(統合)、はじめてのちのアウトプットへとつなげることができます。

 

つまり、第二言語習得の認知プロセスはこのようになります:

1. 気づき

2. 理解

3. 内在化

4. 統合

 

それぞれの段階で求められる能力が異なるため、学習者の適正によってスムーズにすすむプロセスとそうでない苦手なプロセスが存在します。

自分が何が苦手かを自覚すると割り切ることができるため、変に落ち込まずに済みます。学習全体の進捗に良い影響を与えるわけです。認知プロセスについて理解することは大事ですね。

 

 

中間言語への取り込み

第二言語習得において学習者がたどる習得プロセスというものが存在します。大雑把に言うと、中間言語の構築を挟むモデルなわけですが、どのように中間言語が構築されるのかについても研究が進んでいます。こちらです:

1. 気づき (noticing)

2. 理解 (comprehension)

3. 内在化 (intake)

 

内在化が中間言語への取り込みのことです。なので、ここでは1と2について説明しましょう。

 

1. 気づき:
私たちは膨大な情報に囲まれていますが、それらすべてをインプットしているわけではありません。注意を向けたものだけが意識的にインプットされます。この「注意を向ける」ことが「気づき」の意味です。意識的にインプットされたものは短期記憶として保持されます。

 

2. 理解:
理解には浅い理解と深い理解の2段階があります。浅い理解は言葉の意味がわかるくらいの理解です。book, tree等、単語の意味は知っているといった具合ですね。深い理解ではこれらを実際に文章のなかで使えるくらいの理解です。bookの複数系はbooksだとか、木の根元はat the base of a treeだとか。

深い理解は仮説形成とも呼ばれます。bookの使い方はこれで合ってるのか?等、実際に使う場合には仮説を立てながらやっていくわけです。

 

以上の気づきと理解を経て、インプットした情報を学習者の中間言語へと取り込みます。これを内在化と言います。内在化においては既存の情報と獲得した情報の照らし合わせがおこなわれ、仮説検証が実施されます。このように中間言語が構築されていくのです。

 

 

文法形態要素の習得順序

中間言語母語に影響されず、すべての学習者共通のプロセスを経て形成されます。この形成プロセスを分析することで、普遍的な学習メソッドの構築が可能となります。普遍的なものを調整し、学習者毎に最適化された学習メソッドを組み立てることができるわけです。

 

そこで、中間言語において英語の文法形態要素をどのように習得していくのか、さまざまな研究によって解明されたプロセスが下記です:

グループ1: be動詞, 複数形の-s, 現在進行形(-ing)

グループ2: 助動詞

グループ3: 不規則動詞の過去形

グループ4: 規則動詞の過去形, 3単現の-s, 所有格の-s

 

どのような母語をもつ学習者でも、上記のプロセスで中間言語を構築します。なので、このプロセスにしたがった学習メソッドのほうが学習効率が高くなる、というのが理屈です。

 

教科書や参考書のなかには、上記のプロセスを無視した順番で文法を記載してあるものがあるのも事実ですので、皆さんそこらへん注意してみましょう。ただし、どうやら日本語が母語の学習者にとって各母語共通であるはずの上記プロセスが異なるとの説もあります。なので、ここではこういう考え方もあるくらにとどめておいた方が無難でしょう。

 

 

中間言語

さまざまな国籍、国語をもつ学習者たちは、難易度の違いこそあれ、共通のプロセスで第二言語を習得していきます。「過度の一般化」と呼ばれる現象もその1つでした。この言語習得における共通のプロセスについて考えてみましょう。

 

英語を学習するとき、もっとも単純化された図式は下記です:

母語 → 英語

 

これは、母語をもちいて英語を翻訳し、学習をすすめていくなかで英語の知識やスキルをレベルアップしていく図式ですね。

 

このプロセスを第二言語習得においてもっと有用な形に変換するとこうなります:

母語 → 中間言語 → 英語

 

中間言語」(interlanguage)という見慣れない言葉がでてきましたね。これ、どういうことかと言いますと、言語学習者は母語をもちいて英語を学習する際に、英語とは別の独自の言語体系を構築するというモデルなのです。

 

簡単に言うと、中間言語=仮説段階の英語となります。間違いを多く含む英語と言ってもいいでしょう。この仮説として構築された言語体系である「中間言語」を、なるべく英語に近づけていくことで英語の習得が進むわけです。「中間言語」を構築→検証しながら英語に近づけるという流れです。

 

では、なぜこのようなモデルが考えられたのでしょう。

 

言語学習者の母語にかかわらず共通のミス「過度の一般化」等の現象がありますね。ところが、「中間言語」という概念がない場合、母語と英語が直通しているので、英語学習は完全に学習者の母語へ依存することになります。

どのように英語を学習するかは母語にあわせてまったく異なる。「過度の一般化」のような現象も体系的に捉えることができず、第二言語習得という科学的アプローチがやりにくいわけです。

 

そこで、どのような母語であれ、言語学習者に共通の習得プロセスを解明しようと先人たちが研究を重ねた結果、「中間言語」を挟むモデルがもっとも合理的に学習プロセスを説明できることがわかってきました。

 

中間言語」がどのように構築されるのか考えていけば、母語に依存しない普遍的な学習方略(学習メソッド)を組み立てることができるのではないか、と。

 

個人的にも、普遍的な学習メソッドを日本人向けに調整して、日本人にとってもっとも効果的な学習メソッドをつくる方が非常に説得力がでるのではないかと考えるわけです。

説得力というのは学習モチベーションにとても影響するので、結果的に同じ学習メソッドを提案するにしても、しっかりしたモデルをベースに説明したほうが良いと思いますね。

 

 

誤答分析

日本人にとって英語学習は難しい。これは言語間の距離で説明ができます。ただ、言語間の距離が近い=英語の習熟に有利な学習者でも、日本人でも同様に起こるミスというのがあります。

 

たとえば、過去形の「ed」。「start」を過去形にすると「started」ですが、「go」の過去形は「went」です。ところが、過去形の基本的なルールとして語尾に「ed」をつける、と覚えた学習者はついつい「goed」というミスをやってしまいます。このようなミスは日本人に限らず様々な国籍の学習者に見られます。

 

これは言語間の距離とは関係なく発生する「過度の一般化」と呼ばれる現象です。

 

また、誤答をさらに分析すると、不注意や疲労による「間違い」(mistake)と、知識不足によって繰り返される「誤り」(error)もまた異なる性質をもちます。

 

後者の「誤り」こそ、学習者が注意をむけるべきこととして発展したのは「誤答分析」です。学習者の習熟レベルを判定するには、「間違い」が混在する中からより正確に「誤り」を特定し、その後の学習に活かすのです。

 

このように、学習者の失敗を分析することも第二言語学習の本質をつかむのに役立つわけですね。

 

 

英語はどのくらい難しいか

日本人が英語が苦手、という話はよく聞きます。とくにスピーキング能力においては目も当てられないと。本当なのでしょうか。

 

アジア諸国におけるTOEFL iBT®の平均値というデータがありまして、2007年と少し古いですが、日本人の平均スコアは下記の通りです:

リーディングスコア: 16点
・リスニングスコア: 16点
・スピーキングスコア: 15点
・ライティングスコア: 18点

これを見るかぎり、とくにスピーキングが苦手というわけでもなさそうです。

ただ、アジア諸国と合計点の平均を比較すると30国中27番目。下から4番目と悲惨な状況。

 

結論はスピーキング能力がとくに低いというわけではないが、日本人が英語が苦手というのは間違いないと言えるでしょう。(TOEFL iBT®を信頼して)

 

では、なぜ日本人が英語が苦手なのか。それは1つに「言語間の距離」(Language distance)が影響しています。簡単に言うと、日本語と英語はぜんぜん違うということです。

 

ここらへんの研究は外国の方が進んでいるようで、アメリカ国務省がまとめた「英語ネイティブスピーカーにとっての言語難易度」というデータが有用です。

「言語間の距離」が問題なら、逆パターン=英語利用者にとっての日本語習得の難しさがそのまま指標に使えるわけです。

 

「英語ネイティブスピーカーにとっての言語難易度」は習得しやすい言語順にグループ1〜5に各言語をわけています。

そのうちもっとも習得が容易なグループ1に所属する言語はイタリア語やスペイン語等です。こちらは英語と密接に関連している言語です。簡単に言うと、英語とイタリア語やスペイン語は似てるということです。そして、習得目安時間は約600時間となっています。

 

日本語はどうなのかというと、予想どおりグループ5。英語ネイティブスピーカーにとってもっとも習得が困難なグループに所属しています。習得目安時間は約2200時間。グループ1の言語に比べると圧倒的に習得までに時間がかかります。

 

このように、日本人英語学習者の前に困難が待ち受けていることは厳然たる事実です。歯を食いしばって受け入れましょう。その分、日本語と英語の両方を操れる人は世界的にも珍しいということです。そういう珍しい人は市場価値が高くなります。つまり、困難に立ち向かう価値があるということです。

 

がんばりましょう。